採点者の気持ちを考えよう
公立中高一貫校の問題がどのようなものかご存知ですか?
たとえば、このような問いが出てきます。
(横浜市立南高等学校附属中学校2023年度より)
【資料1】資料に書かれていることを「意識」「自然」という言葉を用いて、あとの【条件】にしたがって、まとめなさい。
【条件】
複数の段落をつくり、260字以上300字以内で書くこと。
題名は書かずに、1行目、1マス下げたところから、書くこと。
さて、このような問題をどのような考えを持って解答すれば良いでしょうか?
もしも私が採点者だとしたら、このように採点します。
まず、【条件】を満たしていない回答はバツとします。つまり、下記は一瞬で×がつきます。
題名が書いてある
1行目の1マス目を下げていない
260文字に足りない
300文字におさまっていない
一瞬でバツをつけたいために【条件】があるといっても過言ではないかと思います。
なぜ一瞬でバツにするかというと、それは下記のような理由になります。
横浜市の公立中高一貫校の受験倍率は4〜5倍です。横浜市立南高校付属中学の定員は160名なので、受験者数は600〜800名となります。
その受験者数の260〜300文字を全て読むとなると、最低でも156,000文字(原稿用紙約400枚分)を読まなくてはならないことになります。しかも、文章を書かせる問題はこれだけではなく、他にも複数出題されます。
受験日(2月3日)から合格発表日(2月10日)までの土日を含めた7日間という短い期間に、限られた人数で採点しなければならないとすると、全ての回答を丁寧に見ていくのは難しいはずです。
そこで、どこかで採点時間を短縮するしかありません。
その時間短縮ポイントの1つが上記の【条件】に対する一致・不一致です。
さらに、【条件】には書かれていないものの、採点者が「採点時間を短縮できる」と判断できる要素があります。
それは、文字が綺麗か汚いかです。
汚い文字の解読には時間がかかります。そのため、そこで「読む気にならない」「読むのに時間がかかりそう」と判断された解答用紙はバツがつくかと思います。
「せっかく良い解答を書いても間違いになるなんて、教育の本質として間違っている!」
とお怒りになる方もいらっしゃるかとは思うのですが、教育現場における先生方の長すぎる労働時間もまた大きな社会問題の1つです。
繰り返しになりますが、受験日から合格発表日までが約1週間。
その間、通常授業を行いながら、少なくとも下記の作業が行われます。
600〜700人の解答用紙を採点する。
採点に迷った解答群を先生間ですり合わせし、点数を確定させる。
事前に届いていた小学校からの調査書(小5〜6年の成績)の点数と合算し評価する。
合格者を決める。
さらに想像するに、採点を担当する人の数は限られているはずです。採点者それぞれが独自の感覚や主観で採点をしていたら、合格者の基準を一定に保つことができないためです。そうなってしまうと点数の最終判断を下す人の労力は大変なものになってしまいます。
私もいくつかの企業で適性検査の採点業務のようなことをしてきたので、採点者の気持ちがよくわかります。
今回の話を小手先のテクニックのように思われた方もいらっしゃるかと思いますが、お伝えしたい本質は、
採点する側の気持ちになれるかどうか?
また
「こんな解答を書いてくれたら良いな」と思いながら問題をつくっている人の気持ちになれるかどうか?
です。
つまり、相手の立場になって考えることができるかどうか?が適性検査の一次審査を通過するために最も必要なことだと私は考えています。
この第一段階をクリアできた方が、解答の質で判断される次の段階に進めます。
もちろん、進んだ後も採点する側の気持ちに立てるかどうかで勝負が決まると思います。
「模範解答に近いから採点がしやすい!」はもちろんのこと
「なるほど!面白い考え方!」
「やさしい性格が文章からにじみ出ている!」
「だから、正解にしてあげたい!」
採点者が人間である限り、そういった気持ちが採点判断に加わるのは正常なことだと思うのです。
そんな風に思わせられる解答ができるかどうか。
それが公立中高一貫校の適性検査の難しさであり、面白さではないでしょうか?
また、もし志望の学校を不合格になったとしても、これから出会う数多くの人たちに対して「どのように考えているのだろう?」「なぜこのように考えるのだろう?」「どうすれば喜んでくれるだろう?」と考える習慣が身についたのであれば、それはそれで受験勉強が成功したと言えるのではないかと私は強く思います。
ぜひ、みなさんのお考えもお伺いさせてくださいね!
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